ブレーキ雑学講座
ローターの塩害とメンテナンス その1
塩害とは聞きなれない言葉ですが、凍結防止剤、潮風などの塩基物(塩)により
ブレーキ、パッド、ローターなどが錆びて、性能不良あるいは寿命が短くなることを
いいます。
最初に塩害を経験したのは、30年以上前のカナダでした。冬季に道路に撒かれる
大量の凍結防止剤により、ローター表面、キャリパ摺動部、パッド摺動部に錆びが
生じ、その結果効き不良、パッド不均一摩耗・早期摩耗などの問題が生じてしまい
ました。
当時は、錆び発生のメカニズムがわからず苦労しましたが、今ではキャリパ
のメッキ仕様変更、摺動部構造改善などの対策により性能的には問題のないレベル
に達しています。しかしながら、今でも一部の方から「ローターが錆びてグー音が出る」、
「錆びたローターはどうしたらよいのか」などとローターの塩害に関する質問がよく
あります。今回は、ローターの塩害とメンテナンス・整備方法についてお話をしましょう。
クルマの一生を通じて、ローターはどのように変化するのでしょうか。
最初は防錆のためローター表面は薄くメッキされていますが、慣らし運転でこのメッキは
削り取られ、パッド摺動面は本来の地肌(鋳鉄)が現われてきます。その後、熱、ブレーキ力、
パッド摩耗粉、塩、水、泥などさまざまな環境に曝されて摩耗、変質、劣化していきます。
ピカピカのもの、錆びてボロボロになったもの、レコード盤状の傷がついたものと千差万別
です。まさにローターを見れば、そのクルマの歴史がわかるといってもよいでしょう。
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さて、本題に入る前に、パッドの防錆性能について、お話しておきましょう。パッド材質は、
通常アルカリ性となっています。ローターのパッド接触部、パッド自体の防錆が目的
です。また、純正、当社スポーツパッドSSなどの非金属系パッドには、パッドの摩耗粉が
ローター摺動面に付着してできた薄い皮膜や軽度の錆びを削り取る物質が入って
います(雑学講座24「摩擦境界面のお話」)。亀の子タワシのようなものです。
一方、メタル系パッドは、金属繊維を使っていますので、薄い皮膜、軽度の錆びは
勿論のこと、中度の錆びも削り取ってくれます。金属タワシのようなものです。
但し、ローター摺動面にレコード盤状傷を発生させたり、パッド摩耗粉が錆びやすく
しかも固着してしまうという副作用もあります。
では、錆びがローター表面に発生すると、どのような問題がでてくるのでしょうか。
まずは、軽度の錆びです。雨降り後、長時間放置した時に見られる小さな赤錆がこれ
に当たります。このような軽度の錆は、走行中にパッドで自然に削り取られますので、
効き不良、ローター・パッドの早期摩耗などの問題はないといってよいでしょう。
次は、ローター摺動面に固着した中度・重度の錆びです。凍結防止剤散布路を
繰り返し走行した時、メタル系パッドを常時使用している場合、あるいは半年以上
屋外に駐車した場合などがこれに当たります。この中度・重度の錆びは一旦固着
すると削り取りにくく、しかも硬くて研磨材の働きをするため、効き不良、鳴き、
ジャダー、ローター・パッドの傷・荒れ、早期摩耗の原因となります。
続く