ブレーキ雑学講座
ブレーキの引き摺り
「ブレーキの引き摺り」は、非制動時にパッドとローターが接触してブレーキ力を生じている
現象をいいます。
引き摺りは、少ないに越したことはありませんが、費用対効果から若干の引き摺りは許容
しています。ところが、この許容範囲を超えると、鳴き、燃費低下、ハンドル取られ、パッド・
ローター異常昇温・臭い、さらにはエンストなどを生じます。
正常なブレーキでは、ローターとパッドのクリアランスは0.1mm以下が普通です。
非制動時は、パッドがピストンとローターの間を左右に動きながら、時々ローターと接触
していますが、これによる引き摺りは非常に小さく、問題とはなりません。制動時は、
パッドが、ピストンでローターに押し付けられ、クリアランスは0となります。ペダルを離す
とピストンはゴムシールにより元の位置に戻り、クリアランスも元に戻ります
(詳細は、雑学講座80「パッドの摩耗調整と摩耗警報」参照)。
このように、非制動時のクリアランスが常に一定であれば、引き摺りはほとんど生じませんが、
熱・泥・水・振動などの厳しい外部環境により、キャリパ構成部品が劣化すると、クリアランス
が大きくなったり小さくなったり安定しなくなります。
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では、引き摺りの原因にはどのようなものがあるのでしょうか。
先ずは、パッド偏摩耗(不均一摩耗)です。偏摩耗量が約2mm以上になると、パッドが自由に
動けるクリアランスがなくなるため、いつもローターに押し当てられた状態となり、引き摺りが
生じます。一旦引き摺りを生じると、ローター、パッドとも熱膨張し、引き摺りは益々大きく
なってきます。
次は、高負荷・高温制動によるパッド材料の熱劣化・裏板の熱変形です。これもパッドが
自由に動けるクリアランスを少なくします。
キャリパ構成部品の作動不良も原因の一つです。ピストン摺動部、浮動型キャリパ摺動部、
パッド摺動部が固着してしまいますと、パッドが自由に動けるクリアランスが小さくなります。
またゴムシール、鳴き防止板、鳴き防止バネなどが劣化するとピストン、パッドを元に戻す力
が減少しクリアランスが小さくなります。これらの作動不良防止には定期点検、オーバーホール
が有効です。またゴムシールなどの定期交換部品は必ず交換するようにしましょう。
ローターの振れも引き摺りの原因となります。ローターが偏摩耗したり、錆びたりして振れが
約0.1mm以上になると引き摺りを生じてきます。
マスタシリンダのロッド調整不良もよくある原因です。非制動時でもマスタシリンダに圧力が
生じ、それがパッドを押しつけているためです。また、パーキングの掛けっ放しなども良くある話です。
引き摺りは小さいうちは問題ないのですが、放置しておくと次第に大きくなり問題となってきます。
非制動時の鳴き、制動時のハンドル振れ、異臭などの前兆があったら点検してください。
(参考)鉄道、産業機械ではローターの振れは数mmもあります。そのため大きな、安定したクリア
ランスが得られる機械的戻し機構が使用されています。
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