ブレーキ雑学講座
2ピストンキャリパと4ピストンキャリパ
今回は、キャリパブレーキのピストン数(シリンダー数)(N)についてのお話しです。
自動車用キャリパでは、浮動型でN=1~3個、対向型でN=2~6個が普通です。何故このように
Nは違っているのでしょうか。その理由を、2ピストンキャリパ(パッド1枚にN=1個)と
4ピストンキャリパ(パッド1枚にN=2個)を例にとってお話しましょう。
なお、浮動型と対向型のピストン数の違いについては、既に雑学講座でお話していますので
今回は省かせていただきます。浮動型は対向型の半分とみなしてください。
まずは、クルマへの装着性と効き(ブレーキ力F)の関係です。
Fは式で表すと F=k*r*S*N*P
(ここでk=定数、r=制動半径、S=ピストン面積、N=ピストン数、P=ブレーキ圧力)
のようになります。
軽・小型車では車重が軽いのでFも小さく、N=2で十分です。
大型車では車重が増えますのでFも大きく、つまりピストン面積S(ピストン径)
を大きくする必要があります。ところが、装着スペースの制約によりむやみにピストン径
を大きくすることができませんので、ピストン径を小さく、ピストン数を増やして
対応しています。
4ピストンのキャリパー
更に車重が増えるトラックでは、Nを増やすのみならず、ブレーキ圧力Pを高くし
(高液圧システム)、1車輪に2個のブレーキを装着したりして対応しています。
(参考)1輪あたりの荷重が1桁も重い飛行機ではNを数個~10個に増やすのみならず、
ローターも数枚~10数枚に増やして、効きをアップした浮動型全面多板ディスク
ブレーキが使用されています。
次はパッドの寿命です。パッドの摩耗は、スピードが速いほど、車重が重いほど多
くなりますので、スポーツ車・大型車、トラックはパッド面積
(パッド半径方向寸法*円周方向寸法)を大きくする必要があります。
ところが、ホイール内スペースの制約から半径方向寸法はそんなに
大きくできませんので、円周方向寸法を大きくするしか手がありません。
つまりパッドは、より長方形になってしまいますので、ピストン数の多い
キャリパの方が適しているということになります。
次は、パッド押圧分布の均一性です。パッドは、ピストンによってローターに
押し付けられていますが、パッド表面を細かく分割して見ると必ずしも
全ての個所が同じ力で押されているとは限りません(押圧分布)。
ピストン押圧点、キャリパ撓み、パッド撓み・偏摩耗などの様々な
要因により、あるところは強く、あるところは軽く押されています。
この押圧分布が不均一になりすぎると、ジャダー、フェード、鳴き、
ローターのヒートスポット・異常摩耗・亀裂、パッドの偏摩耗などの
要因となります。つまりパッドが長方形になるほど、押圧分布を均一
にするためにNも増やす必要があるわけです。
最後は、見栄えです。一般にはピストン数の多いほうが高級、高性能と
みなされるようです。高級2輪車ではN=6のキャリパも珍しくなくなって
きました。
以上のように、4ピストンキャリパは、2ピストンキャリパに比べて性能面
ではメリットは多いのですが、キャリパのコストアップ、マスタシリンダ
・倍力装置など他ブレーキ部品の変更を伴うため、その使用範囲はスポーツ車、
大型車、トラックなどに限定されるようです。