ブレーキ雑学講座
高齢者にやさしいブレーキシステム
警察庁の交通事故の2004年の統計によると、(事故後24時間以内に死亡した)死者数は
約7400人です(因みに負傷者数は万人弱)。その内訳は、状態別に見ると自動車
運転中が40%、歩行中が31%、自転車走行中が12%、年齢層別では高齢者(65歳以上)が
41%と2位の若年層(16~24歳)の12.7%を大きく引き離しています。
また高齢者層では歩行中が49%、自動車/2輪車運転中が34%、自転車走行中が17%
となっているのに対し、若年層ではそれぞれ92%、3%、5%と全く違った様相を呈しています。
→警察庁の交通事故発生状況
そう遠くない将来、超高齢化社会の到来で高齢者の事故が社会問題化される可能性があります。
最近の車にはいろいろな安全装置・システムがついています。その中で高齢者にとって必要な、
あったらいいなというブレーキに関連する装置・システムを紹介しましょう。
ブレーキの目的は、短い停止距離で,車両が安定して、しかも操舵性を確保しながら止まれる
ことです。今回は停止距離を例に高齢者と若者の特性の違いを説明します。
雑学講座46「ブレーキの停止距離」でお話しましたが、車が止まるまでに大きく分けて、
知覚時間、空走時間及び制動時間があります。高齢になるとこれらの時間が長くなり
その結果停止距離が伸び事故に繋がりやすくなります。
先ずは、知覚時間です。通常は1.5~2秒と言われています。運転中大部分の情報は目から
得られますが、高齢になると、近くが見え難い、明暗に追従し難い、対象物が識別し
難くなる等の理由により対象物を知覚するまでの時間が長くなります。
また知覚した情報を基にブレーキをかけるかどうかの判断を行う機能も衰えているため、
判断遅れ、場合により判断ミスを起こしがちになります。両者で0.5秒長くなると100km/hで
走っている場合は14mも停止距離が長くなります。
次は、ブレーキペダルを踏むまでの時間です。高齢者でも遅れはそんなにないようです。
最後は制動時間です。通常はブレーキペダルを踏み込む力が大きいほど短くなります。
高齢者は力が弱い、ペダル十分踏み込めないとかでどうしても制動時間が長くなりがちです。
これらの高齢者の弱点を支援するのが各種のシステム・装置です。
例えば、最近はほとんどの車に装着されている「ブレーキ・アシスト」はブレーキペダルの踏み込む力
を増大して制動時間を短縮するブレーキ装置です。
最近の高級車に装着されている「衝突軽減ブレーキシステム」、「障害物回避システム」などは、
知覚時間、空走時間、制動時間の短縮と全てを支援するものです。ミリ波レーダー、超音波、
赤外線などを使い歩行者、対向車、障害物などを知覚しドライバーに知らせます。
ドライバーはその情報を基に、より正確に、より早くブレーキが必要かどうか判断でき、
認知時間・空走時間を短縮することができます。またシステムに内蔵している油圧発生装置
によりブレーキペダルの力を増大し制動時間が短縮できます。また本システムは上記以外に、
車間距離が短くなりすぎると「危険」とドライバーに警告したり、事故を回避できないと
判断した場合はドライバーの意思に関係なく自動的にシートベルトを締め付け、ブレーキを
かけたりする機能を持っています。これらの機能が働く条件は、車速、車間距離,ブレーキ
踏み込み力・速度などをパラメーターとして予め決めていますが、人によっては違和感が
あるかもしれません。
なお、ブレーキに要求される性能は停止距離短縮以外に車両安定性,車両操縦性がありますが、
これらは高齢者に限らず一般の方にも必要不可欠です。「ABS」、「VSC」などがこれに
当たります。
今回は、高齢者支援の観点からお話しましたが、当然ながら一般の方がこれらの装置・システム
を使用すれば、より安全な運転が楽しめるのは勿論のことです。