ブレーキ雑学講座
故障診断装置
皆さんは車に異常・故障があった場合、おおよそ次のような手順を踏むのではないでしょうか。
①警報灯、異音、臭い、フィーリングなどで異常・故障と感じる。
②故障個所の特定をしてもらう(する)。
③(必要なら)点検・修理をしてもらう(する)。
今回は、主として①②の警報、故障個所の特定に使用される故障診断装置についてお話しましょう。
若干専門的になりますがご容赦ください。
最近の車には、安全、快適性、燃費、動力性能、排ガス規制などに対応するため非常に多くの電子制御
システムが使用されています。それに伴い、整備士に必要な知識はどんどん増えていますが、整備士の
育成がそれに追いつかないという悩みがあるそうです。
その結果、誤診断、長期間診断、高修理費用などの問題が増えてくると大変です。この問題解決の1つとして
故障診断装置が最近注目を浴びています。
故障診断装置は設置場所によって、車載故障診断装置(OBD(On-Board Diagnosis))と車外故障
診断装置(Off-Board Diagnosis=スキャン・ツール)の2種類に分類できます。
第1のOBD(車載故障診断装置)は車載されている各制御システムのコンピュータ(ECU)と警報灯
から構成されており、警報機能と故障診断機能を有しています。
ABSを例に説明しましょう。ABSのOBDはABS・ECU(エンジン・ルーム、シートの下などに装着)と
ABS警報灯(インスツルメント・パネルに装着)から構成されています。ABS・ECUはABSの構成部品
(車輪速センサ、液圧制御用ソレノイド・バルブ、ABS・ECU等)の作動状況を常に監視しています。
構成部品に異常作動、断線などの異常があった場合はABS警報灯を点灯させドライバに異常を知
らせます(警報機能)。
余談ですが、昔、山道を運転中にブレーキ警報灯が点灯し、怖くなって、その場に車を置いてJAF
を呼びに行ったという笑話(本当の話です)を聞いたことがあります。皆さん、心配は要りません。
点灯したら、無理な運転は避け、近くの整備工場まで持込んで故障診断を受けてください。
ABS・ECUは異常を内部の記憶装置に記録しており、警報灯の点灯パターンで診断故障部品の特定
ができます(故障診断機能)。その結果、正確・迅速・安価に点検・修理ができることになります。
しかしながら、この診断作業は何種類もの電線を接続したりABS警報灯の点滅状況を確認したりとかなり
の技術が必要です。その上、自動車メーカ毎に方法が違っていますので整備士にとってはなかなか難しい
作業となっているようです。なお、上述あるいは後述のスキャン・ツール普及などの理由により、OBDの故障
コード(点灯パターン)呼び出し機能をなくす自動車メーカも出てきています。
第2のスキャン・ツール(車外故障診断装置)は同じ自動車メーカならABS以外にもエンジン制御、
TRC、車両安定制御などの故障診断にも使えます。大きさは一般的には電話機より若干小さく、車載
のECUと電線で繋ぎ使用します。故障個所の読み出し以外にエンジン制御パラメータ・データの
読み出し機能(2000年排ガス規制で義務化)、シミュレーション機能などOBDと比較してより多くの
機能を持っていますので、より正確に、より簡単に、より早く故障診断が行えるようになっています。
余談ですが、これを使って市場でリプログラミング(ソフトウエアの書き換え)を行う自動車メーカ
も出てきたそうです。
しかしながら、このスキャン・ツールは自動車メーカ毎に通信方式、故障コードNo、接続コネクタ形状
等が違っていますので、ディーラ系以外の整備工場にとって大きな負担になっています。2000年10月
の排ガス規制でのOBDの装着義務化、あるいは米国、欧州規制との調和も視野に入れると、今後数年
以内に、どの自動車メーカのどのシステムにも使える汎用スキャン・ツールが開発・販売されるもの
と思います。
電子制御システムの進歩には目を見張りますが、それに伴ってますますBlack Box化した装置・部品
が増えてきています。最近の家電製品に見られる「修理するより(エレクトロニクス基盤)交換」の
ような風潮は資源浪費、技術力低下のような気もしますが、これも世の中の流れでしょうか。
ブレーキ警報灯点灯 | パッド摩耗、ブレーキ液漏れ、パーキング・ブレーキ非解除 |
ABS警報灯 | ABS異常(車輪速センサ、液圧制御用ソレノイド・バルブ、ECU等) |
タイヤ近辺のキーキー音 | パッド摩耗(故障診断装置はドライバの耳です) |
間接的にブレーキが関係している警報灯には、TRC、車安定性制御などがあります。 |